春と酒乱/ただのみきや
 

標本箱にピンで止められた蝶の影


その日
音楽の幽霊は乾いたアスファルトの上
日差しの中の白っぽい闇に立っていた
かつて地下のカフェで稲妻だった
そう室内で飼える蛇くらいの
フルートとベースとパーカッションが
素早く絡み合い絡んでは解け
時間を狩蜂みたいに麻痺させた
音楽は一人の女の踊り
パーカッションのステップ
うねる肢体のベースライン
フルートはその激しい歌声で
歌声自体をかき消した
眼差しの閃光 髪を振り乱し


すべては春の悪ふざけだ
わたしはあのころより物事をよく知っているが
もう今では感覚は感覚の記憶でしかない


四月が一通の手
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