誤謬/ただのみきや
こする目もとに青のインク
乾き切らない饒舌の
鞭打つような匂いがした
盗掘された遺跡
凌辱された遺言
亡霊というにはあまりに淡い
すすり泣くような糸のほつれ
そっと吐息で揺らしても
開いた窓から押し寄せる
光は滾る鍋のようで
意識は対流し
形を変えながら移動する
見渡す限りに敷かれた影を
粘菌の足取りで引きずりながら
だがコンマ一秒
街角を幾つも走り抜け
あの目は見ていた
トランクを斜めに引いて
歩く十人の旅行者を
その内の一人のトランクは空(から)で
旅行者を装っていた
やがて知られない秘密が熟し
空(から)のトランクが臓器を宿すころ
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