うつろな姫/ただのみきや
たを離れて往った
年月を経てあなたは
旧家に置かれた楽器の色味を帯びながら
飢えた若い獣の声で叫ぶのだ
その母音の響きこそ
何度もクシャクシャにされて捨てられては
また拾い上げ広げられたもの
自らの存在の表記として言葉に焦がれながら
いつまでも言葉を纏えずに
閃いては
消えて往く
歌の呻きであり
わたしに刻んだ傷
これこそが形見
あなたは生きているが
あなたとわたしは生と死が分かつほど
遠いものだから
いま
あなたはたぶん在って
それは
素焼きの薄い壺のよう
なだらかな曲線で形作られ
目を凝らすと
文様が痛々しくも美しい
いま
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