うつろな姫/ただのみきや
 
つの人格化した理不尽が
最初は親しい友のような顔で近づいては
幼いころからの苦痛の記憶
幾重も固く巻いて結んだ作り物の果実を
不意に千枚通しで貫いたことだろうか
芯まで一刺し毒嚢は爆ぜ
悪夢の種は目覚め発芽する


相対化して
一般化して
客観視してそれでも尚
どす黒い血がヒタヒタと咽ぶ赤子を浸して往く
華奢な細工物が苦い酸の中で悲鳴を上げて消失する
水鏡に映った十字架を掴もうとして沈む修道女の
裏返っても蒼白なままの花弁を誰が見たのか
たとえ紅い蜥蜴がその肌を迸ろうとも
熱い血が文字の様相を呈したとしても
憎しみへと凝固することでようやくそれは
一時あなたを
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