うつろな姫/ただのみきや
代
あなたは風に運ばれる蝶だったろうか
艶な姿をいくつも残像のように重ねて
人々には夢のように見えただろう
けれどあなた自身はいつも血肉を絞るように
禁欲的であり貪欲であり
ひとりの女の姿をした
この世に一匹しか存在しない孤独な獣のように
向こう岸も見えない大河を渡ろうと
自ら流れに飛び込んだのだ
流れる血の匂いに引き寄せられ
自らの腐ったはらわたに気がつかない魚たちが
あなたの足を引っ張った
死の深み寸前まで
そこにはいつも選択
責めたてる者と誘う者が交互に戸を叩き
明滅する蛍光灯の残酷な白さより
漆黒の扉がどれほど優しげに見えただろう
いったい幾つの
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