うつろな姫/ただのみきや
 

あなたは形を得なかったから
あなたのたましいは
濃い雲と薄い雲が重なりうねる空のうつろ
霧立ち込めてもどよめきを隠せない海のうつろ
囁くものたちがいたるところに潜む森のうつろ
見えざる器の
あるい神の御手の中で
撹拌され 巡り続け
いくつもの乱反射を内に宿す
小さな宇宙だったから
狭い蛹の殻に閉ざされて
想像の数だけ
なにものにでもなれたから
うつろだからこそ鳴り響く
かよわい肉の楽器だったから


絵に描いた理想とドラッグが自由の徒花だった
あの先の時代を冷笑するような
清水も汚水もカラフルに混じり合った
煌びやかなフェイクを純粋に娯楽として愛せた時代
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