神保町の酒場にて/服部 剛
 
夜のカウンターは、自由

グラスを傾け
黙するも
語らうも

頬の赤らむ頃
脳内は緩やかに時を巡り
僕は世界に、恋をする

僕は形見に包まれて
白い肌着は
幼稚園の頃の先生の亡き夫のもの
ブルーのYシャツは
空の上の詩人の恩師で
きつねのネクタイは
体の無い○○さん

隣の空席に
昨年の夏に旅立った
同居の義父の酒に酔う
面影は浮かび
語らいたく…なってくる

――なんだか僕は
  体の透けた人々に囲まれて
  不思議な気分の今宵です

  グーデンベルグの革命
  以来の
  印刷革命を成した
  お義父(とう)さん、


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