神保町の酒場にて/服部 剛
 

  あなたの求めた浪漫に
  今夜僕は、気づき始めた

  初めて行った文藝家の集いで
  ワイングラスを手に
  <心の宿る名刺>を静かにばら撒いて
  人と人の間に
  細く光る縁(えにし)の糸を
  密かに育み始めたことを
  お義父さんに、呟き
  
  (レトロな店内に
   「愛の賛歌」は流れ始める)

  思えば
  結婚前の嫁さんが僕を紹介した
  あの日のサイゼリアの長椅子に
  あなたは、引っくり返りましたね

  今年の僕はぽーかーふぇいすの面持ちで
  静かな炎の人になり
  通り過ぎた誰かが
  幸いにも
  引っくり返るやも…知れぬ

そんな青写真を
脳内のスクリーンに浮かべ

カウンターに肘をつき
目を瞑り
只、耳を澄ます
我が胸に、繰り返す  

心臓の音  





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