上手く眠れないのならなにかほかのことを/ホロウ・シカエルボク
いつも
「いらっしゃい」と静かな声で言う
なにかに気を取られていると聞き取れないくらいの声だ
そういう男だから店の片隅のレジの前に一日中座っていられる
チャールズ・ブコウスキーから狂気を全部抜いたような老人で
店内にはいつもクラシック映画のサウンドトラックが流れている
スカスカの棚には
いつも訪れる客のためだけの商品がぽつぽつと陳列されている
店主はあまり表情を変えない
客が店を出ていくときだけ微笑んだのかもしれないというような顔をする
ストアから大通りを北に渡ったところにあるガス・スタンドでは
この街を一度出ていった女が深夜番をしている
本当は女が一人で夜中に働くこと
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