血と百合の遁走曲/佐々宝砂
 
るべきものは用意した。
大ぶりのナイフ、生のニンニク、
祈祷書、聖水、ケシの実、
そして鋭く尖らせたサンザシの杭。

彼は待っている。

誘惑のときを?
対決のときを?
否、拒絶のときを。




再び、墓所

母親の嘆きを彼は慰め得なかった。
どうしたら信じられよう、
桜色の頬と深紅のくちびるを持ち、
しかも夜になれば目覚める娘、
その娘がもうこの世の者でなかったと。

彼はすべてをひとりでやってのけたので、
疑う者も多かったのだ。

しかし彼は根気よく語りみなを納得させ、
海に背を向けた墓を暴いた。
そこには一人の男が眠っていた、
たった
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