11月18日秋葉原で/ただのみきや
 
血を 視線でぺろりと舐めた
そして 老中力士に警察手帳を持たせると
カッ と目を見ひらいて――
「その手帳を余の前に放り投げよ! 」
老中力士は力加減のあまり脱臼するほど気を遣い 
弧を描き 将軍の構えた銃口の数間先に落ちるように
絶妙に 丁度良く 放り投げた――
黒い手帳 あの巡査の 警察官としての良心が
パラパラページは捲れ 巡査の記憶と心の
襞を 風が梳かすように 手帳が いま銃口と 一直線に――

弾丸が手帳を撃ち抜いた時
巡査は死んだ 振り上げた 硬くならない警棒を 
下ろす間もなく クルリと半身 
踊るような動きで 視線も
墨も付けず宙にひと筆 たゆたうよ
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