11月18日秋葉原で/ただのみきや
 
見上げている
《神曲・地獄編 第十歌「あたし飲み過ぎちゃって」地獄
――酒に酔う人が落ちる地獄ではない
酔っぱらったふりをしてやりたい放題
後から「酔っぱらっていたから覚えていない」なんて言う
好き者の男女が墜ちる地獄――んふっ……んふふっ……》
息を吸いながら笑う巡査は朦朧とし
いまや一町角もある白紙の広がりに
辞世の句を書き連ね句集がいくつも出来上るほどだった
戯言すべてが自由律の虫となって這いまわっている
世界は極度な散文化の果て分子構造そのものが緩くなり
海の真中で筏がバラバラ 離れて漂う流木と化していた
降りてくる海鳥たちに啄まれ
眼孔も乾いて見上げる白い雲

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