ジャンヌ・ダルクの築いたお城 少女Aとテントウムシ/田中修子
年後、青い稲の揺れる季節に病院で息を引き取った。行きかえり、寒いくらい冷房のきいた電車の窓の外に、光る風に触れられて、稲がキラキラ嬉しそうに、青く青くはしゃいでる。
真っ白な病室でピーという心停止の音が鳴ったとき、家族全員と、あの女の姉のおばさんがそろっていた。おばさんはワンワン泣いていた。父はしずかにため息をついてくるりと後ろを向いて肩を震わせている。兄はおばあちゃんの手を握り、無表情だがツーっと涙が垂れた。あの女は片目から一筋涙を流した(ことを、いま思い出した。あのひとにも感情はあったのだ)。
私だけ、涙が出ない。ひとつぶも涙が出ない。いま、心臓が止まってここを去ろうとしているおば
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