父のことなど/為平 澪
 
付け、動ける足でトイレに行けた患者すら足が弱り、おむつ介護の身になった。命は簡単に変動し、失われて出ていく者と、息をしているだけの者と、その時を待つ者しか、残らなかった。それは老人介護施設で長期間働いていた父にはおそらく予想できた光景だったに違いない。
 平成二十六年四月一日。その施術は執行。「腹腔穿刺」は家族の誰にも説明はなく、「どいてください」と、そばに寄り添っていた母を追い出し、父のベッドは全てカーテンで隠された。出てきた父の腰の下あたりには手術後の包布の切れ端が落ちていた。「なぜ、家族に十分な説明もなく手術したのですか?」と、のちに問うと、担当医は「緊急事態でしたので本人に了解を取りま
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