至福の鹿/ヤスヒロ ハル
 


世界がめくれたかのように

今来た方に落ちていった

穴を抜け、地表に出て
このままでは月まで落ちてしまうという焦りが浮かんだとき

飛行機に乗ったもう一人のぼくが

落ちていくぼくを
万有引力で引っ張っているのだと気が付いた

ぼくは物凄い速度で飛んだ

飛行機に向かってうなじから

羽毛に包まれていた頃のように


空はどこから空か

地球はどこまで地球か

鹿はどこまで鹿か

ぼくはどこまでぼくか

ぼくはどこからぼくか

聖地はどこまで聖地か

なぜ世界中が聖域ではないのか

そんなことを考え終えたとき

ぼく
[次のページ]
戻る   Point(2)