至福の鹿/ヤスヒロ ハル
た
世界がめくれたかのように
今来た方に落ちていった
穴を抜け、地表に出て
このままでは月まで落ちてしまうという焦りが浮かんだとき
飛行機に乗ったもう一人のぼくが
落ちていくぼくを
万有引力で引っ張っているのだと気が付いた
ぼくは物凄い速度で飛んだ
飛行機に向かってうなじから
羽毛に包まれていた頃のように
空はどこから空か
地球はどこまで地球か
鹿はどこまで鹿か
ぼくはどこまでぼくか
ぼくはどこからぼくか
聖地はどこまで聖地か
なぜ世界中が聖域ではないのか
そんなことを考え終えたとき
ぼく
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