至福の鹿/ヤスヒロ ハル
 
有してほしくて、

するすると地表を滑り

ついにグランドキャニオン国立公園空港に辿り着いた

そこでぼくはぼくを

空を目指す自我と

マントルを目指す自我に分割した

空をゆく自分を見送るのは初めてだったので

ぼくは高揚しながら、地底を目指した

光が届かなくなった頃
ぼくは生命を生き直している事に気付いた

プランクトンであるぼくがめくれて魚になり
魚がめくれて両生類になり
両生類がめくれて哺乳類になり、猿の先祖になり、胎児になり、ぼくになった

暗闇の中

ついに地球の中心に辿り着いた

すると何故かぼくの体は空の方向に落ちていった
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