小説家小説/水宮うみ
 
どんな意義を見いだすのか。鉛筆で小説を書く者として、少し楽しみだ。
そんなことを思いながら歩いているうちに、だんだんと海の音が近づいてきた。季節は初夏。これくらいの季節になると、海へ着いたら文庫を好きに泳がせてやる。文章の住んでいる所は交通の便が良くないので、それほどたくさんの人は海に遊びにこない。犬一匹好きに泳がせたところで誰に迷惑がかかる訳でもないのだ。文庫は文庫本みたいに小型な犬のくせに、とても楽しそうに上手に泳ぐ。
文庫が泳いでいる間はひまなので、いつも砂浜に文字を書いている。さて今日は何を書こう、と木の枝を手に取り、普段文字を書く場所を見ると、なんと既に先に誰かに文字を書かれていた。
[次のページ]
戻る   Point(1)