足跡に名札がついたことはない/ホロウ・シカエルボク
 
は当然ずっと早く目的地のようなものに到達しておれのことを嘲笑っていたが、おれはなにも知らずに距離だけを進めることなどに興味はなかったのだ。おれはひと足ごとに感じていた、額に汗が滲むことを、疲弊した肉体が腹を減らして鳴くことを。靴底を受け止める大地の確かさを。そこにはわざわざ書き綴ることのない詩情があった。わざわざ掻き鳴らす必要のない音楽があった。だからこそおれは書いたのだ、弱い目を見開いて、指が凝固して痙攣を始めるまで。だからこそおれは歌ったのだ、咽喉が擦れて耳障りな音を立てるまで。要らないと判っているからこそ、そうして続けてきた。汗まみれになって、目をしばたかせながら。それはおれという人間を調律
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