足跡に名札がついたことはない/ホロウ・シカエルボク
通り過ぎてゆく連中の靴はどれも洗いたてみたいに艶めいていて、おれは自分の薄汚れたスニーカーを見下ろしてほくそ笑む。それはおれとやつらの「歩行」という行為に関する決定的な認識差であり、歩いてきた距離の違いなのだ。やつらはまるで歩いたことなんかないみたいな顔をしている、そしてそれはたいていの場合本当にそうなのだ。交通ルールと運転技術を学んで免許を交付してもらい、信号や渋滞で足止めをくらいながら膝が退化してゆくのを誇りに感じているのだ。おれはかれらを横目で見ながら一歩ずつの感触を確かめてきた。それは確かに有意義なことだったし、かれらが見落としてしまうほとんどのものを目に留めることが出来た。かれらは当
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