雪原の記憶/山人
 
薮を上へ上へと移動しているので、先回りして熊の真ん前に出て撃てと言う内容の無線だ。隅安も熊を確認したらしく、銃を構えながら薮の中の熊に接近し始めた。あまりにも近くなので、我慢し切れず隅安は数発撃った。何秒もしないうちに、雪の上に熊が現れた。意外に早かったが、あとは隅安が仕留めてくれるだろうと願った。ところが隅安は逃げ始めた。弾切れになり、弾の入れ替えが間にあわなかったようだ。十メートルほど逃げた。しかし熊の野生には敵わない。最後の抵抗で、銃床部分で熊の鼻先を叩いたようだが、彼らの背後には沢の岩肌が迫っていた。
 隅安と熊は、互いに絡みつくように沢の窪みに落下した。同時に大きな雪塊が彼らのいる場所
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