雪原の記憶/山人
場所に落ちた。数秒後に熊は我々の間を横切り、途中の沢筋の穴に隠れて姿を消した。
彼は独身だった・・・故に子供は居ない。それだけが救いであったのか。無線で事故の事を能天気で話している猟友もいる。まだ事故の重大さを皆が解っていないようだ。実際にこの修羅を目撃していたのは私と間島だけだった。
空は澄みきり青空だ。無線は相変わらずやかましい。私は祈るしかなかった。万に一つの可能性があるとすれば、生きていて欲しいということだけだった。間島は狂ったように、「たかー、たかーっ」と叫び続けながら、彼が落下したと思しき位置に向かって歩いていった。夏のような陽気で暑く、雪は重く粘った。
「久隆は意識はある
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