へび坂/田中修子
 
げのにおいのする人だった。
れんげリンスですすがれた銀の髪に銀縁の眼鏡、その奥にはたくさんのものに洗われて色の抜けた、灰色の目。
着物からワンピースに仕立てたという、上品で丈夫な灰色の服を何着か桐のタンスに持っており、だめになったところにはつぎを当て、かなしいほど丁寧に着ていた。
あのころ私は祖母の孫ではなく、子だった。母はうちのなかにいたり、いなかったりするおんなのひとで、母に持つはずだったいとしさは、すべて祖母にむかっていた。

「熱が下がったさかい、ちょっとでも散歩するか? 今日はあったかいけぇ」
「ん」
ぼんやりした頭でうなずく。私はそのころ高熱が毎日出て立ち上がれない日が続
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