見なれた顔 ★/atsuchan69
べるだけでもありがたいことなんだよ
おそらく母は身振り手振りでそういってみせたのだが、顔がないので口もない
身振り手振りでは到底伝わる筈もなく子供らはさっそく御飯茶碗を持って一斉に母へと向けた
白木の飯櫃には海の砂や貝殻や水色のビー玉、そして神社で拾ってきた玉砂利が入っていた
子供らは茶碗に盛った砂に雑じったビー玉や貝殻を嬉しそうに見つめながら、
同じように小鉢の炭や千切った新聞紙もときおりチラッと見ては愉快そうに笑った
雨の日は、腐敗した古畳の目から悲しみが滲んで濡れた
そればかりか歪んだ天井のそこかしこからも悲しみが滲みて、ポタリポタリと古畳を濡らした
ずぶ濡れになった
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