セパレータ/紅月
 
都市の骨格を飲みこんでいく
逆光のふかくに滲む魚影
潜行 いまだあかるい落陽のさなか



横たわってばかりいる母の
枕元にたかく積まれた新聞紙はいつも
遠くの国に住むだれかのことを語ります
わかる言葉で書かれているから
まるでほんとうみたいでした
たとえば
銃撃 という記号
母のからだはひとりで抱えるにはあまりにもかるく
こぎれいに小分けにされた惣菜を
毎朝母は解凍し箱詰めします



澱みに沈んでいく部屋のなかで
巻きあげられた新聞紙が蝶のように水にあそび
血塗れのタオルが国旗みたいにはためいている
泳げない母の口からは小さなあぶくが漏れて

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