一巡/串
午前十時 駅の南口
キャリーバッグに詰め込んだ春の始まりの空気
わたしを見つけたあのこが笑って手を振った
作り上げた必然のようなただの偶然
滑り台のある公園の桜が三割ほど芽吹いて
その下で火傷するほどに熱そうなコーヒーをあのこが啜る
あの桜の枝が満開になって、散っていったのはいつ頃だろう
都会の真ん中にうずもれた映画館で
スクリーンに映し出された人生をなぞる
おもたいカメラを買ってみたけれど、マティーニはわたしにはまだ早い
ただただ車が走るままに逃避行することを許されたかった
舌の上で溶かしたソフトサンデーはどこまでも甘い
添えられたどうぶつの形のやわらかな砂糖
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