phosphorescence/紅月
釈を交わしてから自宅への道を尋ねると、幽霊は何も言わずにみずからが歩いてきた方角を指差す。彼の輪郭は絶えずほころびをくりかえし、眼孔にはひとみのかわりにいくつもの語彙が渦を巻いていた。生の幽霊なんて都市部ではなかなかお目にかかれないし、物珍しさから、写真を撮ってもいいですかと聞いてみるが反応はない。きっと沈黙は承諾のあらわれなのだと解釈し、iPhoneのカメラ機能を使いふらふらと風になびいている彼を撮影する。しかし撮れた写真のどれを確認してもそこに彼の姿は映り込んではいない。とても残念だったけれど、彼をこれ以上引き止めるのも失礼だと思い、ありがとう、と礼を言って別れてから、彼が指し示した方角へと歩
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