phosphorescence/紅月
 
けれど、そこにはいくつもの線が波紋のように広がっている不思議な図形だけが描かれている。手持ち金もわずかばかりしか残っておらず、仕方がないからバスが走り抜けていった方角と逆方向に歩きはじめる。はじめはどうしようもなく憂鬱な気分だったのだけれど、眼下に海が望める崖沿いの緩やかなカーブや、蔦に侵食され罅割れたアスファルトを踏みしめるうちにだんだん朗らかな気分になってきて、路傍の小さな草花を摘んでみたり、スキップしながら鼻歌をうたってみたりした。月はまとわりつくような群雲にしずみ、わずかばかり漏れだした光が植物のつややかな暗緑色を濡らしている。

とちゅう、人のかたちをした幽霊とすれ違った。軽く会釈を
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