phosphorescence/紅月
う思って、どうすることもせずに僕はひとりのベッドのなかでつめたい石彫刻のようにかたまりつづけていた。すこしばかり経っただろうか、ふいに窓の外からぽつりぽつりとちいさな水音が聴こえてきたかと思うと、ささめきはすぐに陶器を叩きつけるようなかしがましい蝉騒へと変わる。驟雨が降りだしたらしい。全裸の彼女がはげしい雨に打たれる姿を想像する。彼女の腰ほどあるゆたかな黒髪は水のながれを宿し、みずみずしい曲線はおそらく、打ちつけられる強さをもってつぶてを押しかえすのだろう。
とてもながい時間が経って、ようやく部屋に戻ってきた彼女は不思議なことに少しも雨濡れしていない。窓の向こうの雨音は彼女が戻ってくると途端
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