哀れなAlley Cat/ホロウ・シカエルボク
 
に口を閉じないのは、そういう理由からだった。おまけに猫にしては肉が付き過ぎていた。万が一本当に喧嘩になれば、鈍重ゆえにあっという間に首根っこを取られ、腸に詰まった糞を存分に垂れ流してしまうことだろう。それでもなにかしら違和感を覚える程度の頭はあるらしく、「俺は鳴き方もろくに知りはしないがそれでも鳴く権利はあるのだ」などと、妙な予防線を張りながら遠くから小石を投げるような真似をやり続けた。それはつまり、己の存在の不足分を後ろめたく思うような、小心なところがあるということを意味していた。彼はよく余所の猫が使った鳴き方を拝借して次の喧嘩の啖呵に使うようなところがあったが、およそ満足に使いきれてはいなかっ
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