淡水系/ただのみきや
 
――ミルカ ヌカルミ

そんな回文が虻のように掠めた時
女のなにくわぬ横顔は真新しい日記帳で 
天道虫だけが慌てて這いまわっていた
とても大切なものを落としてしまい
それがなにかも思い出せずに
同じ黒子とほうれい線を巡り続けている
自己の喪失を償おうとする男の
ピエロじみたスタイル

少量の砂糖を入れてかき混ぜる紅茶のように
確かに日差しは秒針をうまく包みこんではいたが

朝出かけて行った隣の家の洗濯物が降り出した雨に濡れて
きっと深夜までそのままだと想像できる 
そんな気分にさせる長話だったから
帯を解いて 「えいっ! 」 
引っ張れば独楽のように 季節もまわ
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