時雨模様/嘉野千尋
 
冬の終わり、
時雨模様
描かれるいくつもの輪のなかで
消えてゆくだけの悲しみがあり
雪にはなれず
かすかな温かさにふれたなら、
降りつもることすらできなくて



  一瞬だけ立ち止まり、そして
  わたしの語る言葉の上を通り過ぎていくそれは、
  まるで通り雨のようでもあり
  わたし自身もまた、
  誰かの通り雨なのだろうと気付く
  通りすぎる雨の、ただ一粒のためだけに捧げられる名を、
  わたしは今でも知らないまま



  一瞬の感情を、ただ一つとして留められずに
  それが去りゆくものであるのならば、去りゆくまま
  何も描き出さずに、
[次のページ]
戻る   Point(5)