時雨模様/嘉野千尋
冬の終わり、
時雨模様
描かれるいくつもの輪のなかで
消えてゆくだけの悲しみがあり
雪にはなれず
かすかな温かさにふれたなら、
降りつもることすらできなくて
一瞬だけ立ち止まり、そして
わたしの語る言葉の上を通り過ぎていくそれは、
まるで通り雨のようでもあり
わたし自身もまた、
誰かの通り雨なのだろうと気付く
通りすぎる雨の、ただ一粒のためだけに捧げられる名を、
わたしは今でも知らないまま
一瞬の感情を、ただ一つとして留められずに
それが去りゆくものであるのならば、去りゆくまま
何も描き出さずに、
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