時雨模様/嘉野千尋
 
に、ただわたしの上を通りすぎ、
  滲みこむのではなく、
  すこやかな額の上にも留まりきれずに
  こめかみへと一瞬で流れてしまうような、
  そんな儚いものでもいい、と



  残された言葉の中で考えている
  たとえば優しさに満ちた眼差しの意味を、
  沈黙にこめられた物語の続きを
  留めることができずに駆け足で去ってゆく、
  いくつもの雨粒を

  
わたしがそっと、
そっと小さく溜息をついたなら
そうしたら、立ち止まって
わたしを懐かしんでくれますか?
今日もまた、時雨模様

 

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