夢夜、二 「春祭りの日に」/田中修子
 
わな乳房が揺れ、足につけられた鈴がシャラシャラと鳴る。
 湯船の中心に、服を着たまま突っ立って、こちらに腕を差し伸べている男がいる。白い顔に赤い唇の美しい、儚げで柔和な様子の。
 そのころには私は駆けだしていた。
「あなた!」
「僕の妻」
温かい湯の中、足元をびしょぬれにしながら抱きついた私の耳元で、王子がささやいた。
 この細いけれど強い腕を忘れていたのは、なんで?
 薄くて上品な形の唇からでるいとおしい声を忘れていたのは、なんで?
 長い、長い抱擁が終わり、王子を、いや私の夫を、改めて見る。
 彼は何も変わっていない。銀の刺繍がしてある、まるで私とおそろいの婚礼の衣装のような
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