夢夜、二 「春祭りの日に」/田中修子
りと落ちた手袋から、真っ黒に枯れた枝のような手指が見えた。そうしてふたりは扇で顔を隠す。
「さ、あたくしたちのことはあとで良いでしょう。あなたの到着をいまかいまかと待っているのは、あなたの夫ですよ。さあ、湯殿へ。湯殿の場所は覚えているでしょう。体の弱いあの子が、よくつかりにいっていたあの湯殿よ」
私はゆっくりと、緑の生垣の迷路を抜けた。ここを右、左、左、というように。ひとつ間違えれば出られないような複雑な場所を、婚礼の服をきた私の足は確実に抜けてゆく。
白い柱に囲まれた、白い巨大な四角い湯船だった。
そのまわりを、黒い肌をした奴隷たちが透き通る布を着て踊っている。黒いたわわな
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