罅/本田憲嵩
なければ
降り立ちもしないのだから
きょうも人々の詰め込まれた電車が
オレのホームの前をただただ通り過ぎてゆくばかり
視えもしないものを描きたがった結果が
ついにこれなのだ
オレはかつての昭和の栄光をとどめたまま
朽ちて風化した残骸だ
オレはもはや――)
3
部屋に戻って
机の上で履歴書を書いた
履歴書はいつも嫌いだ
本当に書きたいことは
なにひとつとして書けはしない
たった一文字だって
間違えることなんて許されてはいない
胸のなかで
ひそかに降り積もっている
許されていないことそのものへの
(どうして「?」)、という素朴な疑問符、
くしゃ
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