はさみ/水菜
 
り、感じ取る脳という器官が、聞くことを拒否している。

擦って剥けてしまった手の平の皮をじっと見つめながら、瑠璃子は、思い出していた。

りり、コロ、コロ……ピ、チリリ……。
りり、りり……ピ、チ、リ、りリ……。

いつの間にか角の隅に居た筈のエンマコウロギが、近付いて来ているのか、先程よりもずっと近くで、不完全な音がする。
りりりり、……ピ……コロ、……コロコロピ、チリ……。

ぼろぼろと、気付いたら、涙を両目から溢れ出していた。
祥太郎の白すぎる手が、瑠璃子の涙をまるで吸い取っているかのように拭き取っていく。

「……頼りなくて、ごめんな。でも俺、負けないから」

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