はさみ/水菜
にこり祥太郎は笑う。
赤い海に連れていかれるような気がする。
ぼうっと、コンクリートの壁にもたれかけて、絶対にと念押しをすると、力強く頷いて。
瑠璃子は、頭を振ると、顔を覆った。
「……これ以上は無理よ。私が暴れたから、祥太郎は傷付いたのに」
今日の混乱は、洗面所で。瑠璃子は、いつもの衝動のままに自分を傷付けようとして、結果的に止めようとした祥太郎を傷付けてしまった。
そのまま、この場所へ逃げ込んで来たのだ。……子供の頃からの逃げ場所。打ち捨てられたままの半分だけの教会。
真っ白なコンクリート剥き出しの壁。祭壇。マリア様のステンドグラスが、月明かりに照らされて浮き上がって見えるこの場所に。
ここでは、いつも、自分の二面性が暴き出されるような気がして。
向き合う方の二面性も。
瑠璃子は、無関心の自分と、不安に押しつぶされそうな自分、強気なようで優しくて弱い祥太郎と、弱いようで強い祥太郎をじっと見ていた。
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