千年の海/田中修子
藍の朱の星と、なんの変りもないのです。醜くも美しくも、ただ、そこにある。
ただそこにある。
ちいさな赤い袋を持って入ってきた彼は目を見開きました。ゴクリ、とのどぼとけが動きました。
彼はおそるおそる屈み込んで、砂漠の砂を掴みます。そうしてそれが本当の砂であるかどうかを確かめるために、幾度もさらさらと落としました。出てきた鉄のドアを振り返ります。ノブに手をかけて、少しだけ開けてみました。普通に二階の廊下が見えるだけです。
後ろ手に閉めてから、
「これはなんなんだ」
「砂漠よ」
私は答えました。問いが滑稽だったので、少し笑ってしまいました。
彼は私の左腕を掴み、強く引
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