千年の海/田中修子
 
ら、私の方にゆっくり歩いてきました。
「その、誕生日だから、おまえの。今日は。連絡が取れなかったし、プレゼントを持ってこようと思って」
しどろもどろに言いました。さっき私の腕を掴むときに落とした、滴るように赤い袋を拾うと、手荒にあけました。その中からまた、落ち着いた茶色のサテンのリボンでラッピングされた小さな箱を取り出しました。リボンも引きちぎるようにして開け、箱を壊し、きらりと光るものがありました。
「指輪をあげようと思って」
小さなダイヤモンドのついた、柔らかい金色を放つ指輪をそっと取り出しました。

 ああ、嫌だと思いました。
 私は自分の生まれた日のことなんて、わすれていたの
[次のページ]
戻る   Point(4)