千年の海/田中修子
 
あの、やさしげに、指輪を差し出してくれた、彼は。
 私は走りだしましました。竜巻よ、止まれ、止まれ!
 巨大な螺旋は遠ざかってゆくばかりで、私の命令を聞いてはくれません。
 私は、砂漠のヌシなのに。
 なぜなのか分からない、熱い砂に足が焼けて、悲しいはずなのに声も出ない。遠ざかる、今となっては小さな影のような竜巻を見つめるのが精一杯でした。

 あれから何十年、何百年経ったでしょうか。私は彼を探してさまよい続けてきました。ある日、遠くの遠くの砂丘に、砂と石で構成された、この世界ではあるはずのないきらめきを見つけた時の喜びを忘れることは出来ません。きっと、あの小粒のダイヤモンドの輝きでし
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