最後の発明その発光・わたしはかなしかった/初谷むい
 
どそんなことを当時からわかっていたわけじゃない。約十年かけて見つけたのだ。不安定な時期の不安定な不安が原因でなければ、彼がああいったことをした理由は、今でもわからないままだ。



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「電気消すぞ」

パチン、とスイッチが押され、部屋の中は暗くなる。そとの青色の夜の光だけがわたしたちの鍋を照らしている。ひとしきりの思い出話を終えて、わたしたちは鍋を眺めていた。彼の合図で様々なものが音もなく投入されていく。暗闇にシルエットだけしか見えないそれは気持ちが悪いくらいに食べ物には見えなかった。真っ赤な鍋。トマトジュースの匂いがする。カセットコンロの火、ストーブの火、ちろちろ
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