最後の発明その発光・わたしはかなしかった/初谷むい
と過ごした日々のことを忘れる中で彼自身のことだけはずっと鮮明だった。だから大学の構内でたまたま彼とすれ違ったときに確信をもって気づいた。フルネームで呼んだ。彼はおそれるようにゆっくりと、でもたしかにこちらを振り向いた。何食わぬ顔で驚きと再会の喜びを語り、連絡先を交換して、わたしたちは今、闇鍋をしている。
ヒロサキユウゴが今、わたしの手首をつかんで、ゆっくりと口元に近づける。きっと彼はわたしが彼の呪いを知っていることを知らない。だから彼は安心しきっているだろう。そして怖がっている。自分のしたことに。わたしが今、ここにいることに。彼は口を少し開け、しかし何も言わないままにわたしの指を口に含んだ。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)