うみのほね/田中修子
 
に三十分以上かかるので、この階のほとんどの部屋は空っぽだ。吹きすさぶ風のほかは、とても静かだ。ソファベッドとノイズだけが流れるテレビ(でも、一日中つけっぱなしだ)、小さな台所と小さな四角いテーブル、冷蔵庫、真っ白なユニットバス。空っぽの棚もある。これは何、と尋ねたら、珍しいことに少しだけ笑って、好きなホンがあったよ、と言った。ホンって何。
 「こう書くんだ」
 真さんは空中に文字を書く。本。……とうとつに、そうだ、私は本を知っている、と思う。
「思い出した……エホン。絵本、読んでもらった、私。あと、辞書……たくさんことばのある、難しい本とか」
「そう。大昔の秩序だ。今はもう、そんなものない
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