うみのほね/田中修子
ふと前に目をやると、薄汚れた灰色のタンクトップに穴だらけのジーンズを履いている男の子がこっちに向かって歩いてきた。夢遊病者のように、ふらついたような足取りで、あたりに視線を漂わせながら。-私みたい。私は立ち止まる。彼も私に気づいて立ち止まる。
視線が合ったとき、少しだけ死にそうになった。
彼が何を考えているか全部分かってしまったような、そんな気持ちになったからだ。どんどん体の中に記憶めいたものが流れ込んでくる。
私とこの人は同じような体験をしている。それが分かる。生きるために誰とでも肌をあわせ、いろいろなものを失っている。そういう、静かで悲しいものだけれど、子供のように底の抜けた
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