モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
 
に、剥き出しの金属材で、高くて無愛想だった。下を流れる川は、どちらに向かって流れているのか分からなかった。流れるのをとっくにやめているのだと言われても不思議じゃなかった。見下ろしていると、ふと僕自身が上から押さえつけられているような錯覚に陥って、僕は目を瞑った。
「どうしても世界が憎くなったら」
 不意に、みやちゃんが耳元で囁いた。大気圧が一瞬だけゆるんだような気配。僕は首を傾けてみやちゃんを見た。彼女は少しはにかむように僕を見上げて、
「あたしを殺してね」
 嬉しい報告をするときのように、語尾は少し照れ笑い気味に掠れて消えた。僕は感情を取り落としそうになって、慌てて、
「大丈夫。大丈夫
[次のページ]
戻る   Point(0)