モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
の色も少し暗鬱なタールの色をしている。その部屋ではね。……
17
灰色の道。秋の午後の大気はずっと上の方で、細かい氷の粒を纏っているように青く光っていた。みやちゃんは生地の薄い、紺色のカーディガンの前を両手で合わせてくるりと回った。何か、胸に重大な秘密を抱えているような仕草で。ちょうど橋の真ん中あたりで、僕はひどく手持ちぶさたになり、無意識に左手がポケットのライターを探していることに気付いた。歩道は本道から一段高くなっていて、僕たちの傍を冷めたエンジン音が時折過ぎていっては、砂っぽい風を撒き散らしていた。道の両側に作られた欄干は、転落防止と言うよりはまるで脱獄を防ぐために作られたように、
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