モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
物に付き添われた真弓がいた。向こうもこちらに気付いたようで、何故か怯えたような目で私を見た。「真弓」私が言うよりも先に、意外なことに真弓は私の近くまで来て、耳元で、囁くように、「もしよかったら、だけど、また、いいえ、今からでも、会えない? ええと、この前と同じ、スターバックスで」と言った。私はしばらく考えて(その間、真弓の母親なのだろう、穏やかそうな女の人が「お知り合い?」と少々疲れたような声で言うのが聞こえた)、これからまた人の声の混じる場所に行くことに気が進まなかったので、「いいけど。でも何なら私の家にくればいい。ここからすぐだし。どうせ誰もいないし、気を使わなくていいよ」と言った。真弓はしば
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