モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
 
手を休めた。引き出しを開け、錠剤のシートの切れ端が、もしかしたら残っているのでは無いかと、苛立たしい手つきで掻き回す。シャープペンシルの先が、親指の付け根当たりに刺さる。だが、血が滲み出すのも構わず、ミチルは乱暴に引き出しを閉める。終わりだ。
『何もかも終わりだ。』
ミチルは再びノートパソコンに向き直り、無心にキーボードを打ち始める。
『今は午後九時、少し過ぎたところ。ママはまだ帰ってこない。「ママ」という呼び方には、子供らしい無邪気さと、それ故の毒々しさがある。子供は嫌い。……
 私は、小説家になりたかった。それを一番思うのはね、朝起きて、くそ不味いパンを、胃の中に押し込んで、それか
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