モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
もう、ここに帰ってくることもないだろうし、でもここが私の場所であったという事実を美しく切り取って、記憶の中で瞬時、永久保存する。いろんなものに、さようならを言いたい。そして、私がここに生きていた事実を、無かったことにしたい。いつか私の思い出も風化する、それまで私は生きていなくてはならない。私の持ち物は全て歴史的に抹消されなくてはならない。その多くは私の手によってでなくてはならない。私、ええ、白痴になります。一回り小さい私を手に入れます。そのために私は私を酷使したい。いつか簡単に死ぬことが出来るその日まで。生をあきらめてしまえるその日まで。体をたしかめる。ひどく肩が凝っている。とても、煙草の煙を肺に
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