モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
 
ような気がする」
「それは単に古い記憶に罅が入ったんじゃない?」
「違う、ち、違う、な。そうじゃなくて、本当に質の違うものが見えていたんだよ、そして、僕はそこからどんどんどんどん離れていく、僕は段々生きていた記憶を失っていくんだよ、それだけじゃない、僕は段々歳を取って、きっといろいろなものを壊していっているんだ、自分の記憶だけじゃない、現に今生きているひとたちを、僕たちはずっと殺し続けているんだ、そうだよ、息の根を止めているんだ、ちゃんと生きている人を率先して僕たちは窒息死させるんだ、だとしたら僕がまず死ぬのが妥当なんじゃないか?」
「ちゃんと生きている? 何だそれ?」
「・・分からないん
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